■商品の内容
[要旨]
メリル・リンチを破綻寸前に追い込んだスタン・オニールエンロンを破綻させたジェフ・スキリングイラク戦争の当事者ブッシュ前大統領、世界を牛耳るハーバードMBAはこうして生まれる!英国人ジャーナリストの留学記。
[目次]
ノータリンになろう;人生を一からやり直す;隔離された世界;飲んで、騒いで;私はだれ?;世界のリーダーになる?;ベータへ、そしてその先へ;リスクの達人;不安な成功者たち;倫理推進の聖戦士;究極のレバレッジ;カーブを追って;困難で大胆不敵な目標;子どもたちの寝姿が長くなっていくのを眺めながら;卒業;不幸な人間の製造工場
■著者紹介
ブロートン,フィリップ・デルヴス (ブロートン,フィリップデルヴス) Broughton,Philip Delves
バングラデシュ生まれの英国育ち。1994年ニューカレッジを卒業、2006年にハーバードビジネススクールでMBA取得。デーリーテレグラフの記者としてニューヨーク、パリに勤務。現在は、フリーのジャーナリストとしてフィナンシャル・タイムズなどに寄稿している
岩瀬 大輔 (イワセ ダイスケ)
ライフネット生命副社長。東京大学法学部卒業、2006年ハーバードビジネススクールでMBA取得
吉澤 康子 (ヨシザワ ヤスコ)
翻訳家。津田塾大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
今週の本棚:松原隆一郎・評 『ハーバード…』=フィリップ・D・ブロートン著
◇『ハーバードビジネススクール』
(日経BP社・2310円)
◇金融危機の“主役”もここで学んだ
開校一○○年、毎年八七○名からの入学者を擁し(倍率一二・六)、卒業生の約四割がプライベートエクイティやヘッジファンド、投資銀行に進んで、初年度給与平均一四万ドル弱、世界でもっとも有名なビジネススクール・HBS。
本書は、ビルマ系イギリス人が二○○四年から二年間、新兵訓練のごとく過酷な勉強を強いるこの経営学大学院ですごした日々を綴(つづ)った記録である。講義風景や著名ビジネスパーソンの講演会、クラスメートとの飲み会や会社訪問までのシーンが、眼前で繰り広げられるかのように生き生きと語られる。入学までデイリー・テレグラフ紙記者一○年という経歴は伊達(だて)ではない。
MBA(経営管理学修士号)教育にかんする出色のレポートだが、偶然とはいえ本書執筆のタイミングは絶妙だ。入学しただけで学長が勝ち組扱いするほどプライドの高いハーバードビジネススクールは、現在おおいに動揺している。みずからの卒業生が、一○年の間に二度も経済的破局の主役を務めたからだ。一度目は崇拝を集めた卒業生であるジェフ・キリング率いるエンロンの破綻(はたん)。二度目は今次の金融危機だった。
「不幸な人間の製造工場」という副題には批判のみが込められているが、しかし授業のすべてを拒否するような偏った視線は見受けられない。世界中に拡(ひろ)がる卒業生ネットワークへのアクセス権を得たこともまんざらではなさそうだ。それでも忙殺される日々の中で「どんな人をも不安に」させる理由は何なのかは、丹念に検討されている。「その視野の狭さ、欲深さ、政治への無関心、経済界以外に対する軽蔑(けいべつ)の念、そしてなにより自らの過ちの責任を回避しようとする態度」がその結論だ。
専門が狭くて浅い合理性でしか成り立っていないのに幼稚なほどの自信に満ち、専門外で熟慮されてきた知見には不案内であるのに好奇心すら抱かない。それでいてビジネスを成功に導くリーダーシップ論は政治や教育、医療、芸術にまで応用可能だと自負している。鬱陶(うっとう)しいほどエネルギーに満ちているのである。それが、今次の金融危機を招き寄せたリーダーたちのキャラクターだということがよく分かる。
それでもHBSの教授法は、さすがに興味深い。全カリキュラムが、ビジネスの実例についてのケーススタディから成っている。正解のない問題についてグループでディスカッションを重ね、自己陶酔的に表計算をこなし、パワーポイントで発表する。たとえば会計学では、野球クラブのオーナーと選手が、クラブの会計方法について論争するという問題が与えられている。
ゼネラルエレクトリックの元会長、ジャック・ウェルチがキャンパスを訪れ、講堂で公開インタビューを受けたことがあるという。「企業は私たちにとってひじょうに重要な組織……」と言いかけた聞き手を遮り、ウェルチは「いいや、それはもっとも(、、、、)重要な組織だ。あらゆるものがその周囲で回っている」と答えた。これに著者は「びっくり仰天した」とコメントを添える。「彼はほんとうに健全な政府抜きでも企業経営が可能だと信じていたのだろうか?」
著者は、卒業式の日に唯一就職先が決まっておらず辛(つら)かったと回想する。しかしそれがリーマン・ショックの直前であったことを思えば、真っ当なのはどちらかと思える。(岩瀬大輔、監訳・解説/吉澤康子・訳)
毎日新聞 2009年7月5日 東京朝刊
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